Bag of ML Words

ML = Machine Learning, Music Love, and Miscellaneous things in daily Livings

書評:ブルーバックス「量子とはなんだろう」(n/n) あなたの物理的直観をアップデート

なんかブルーバックスでおすすめ頼む~といったら講談社サイエンティフィックさんからオススメされたやつ。

 

 

TL;DR 古い物理的直観を量子力学が破壊してくれます

 

総評

 

今までは古典力学の直観が世界と常識を支配していたが、いずれ量子力学の直観が常識となっていくだろう。だけど、量子力学は古典を包含する広い系なので、これまでの古典力学の直観に基づく理解では、量子力学は理解できない。量子力学のための正しい直観を繰り返し体にしみこませて、物理的直観をアップデートする!みたいなことが第一章に書いてあって、おおぅってなりながら読み始めました。

 

結論:これはすごかった。まず説明がすごい。数式ほぼなしでここまでわかりやすく物理を説明できると思わなかった、つまり筆者の説明力がすごい。これだけで読む価値がある。

全体をふりかえると、やはり面白いが、古い物理的直観を破壊する第四章、第六章がいちばんよかった。実験結果を見ると恐怖すら覚えるくらい量子力学の予言する(古い直観に反する)結果がでてくる。あと、それらに至る第三章までは上記の説明力の意味で素晴らしかった。
 
ただ、一読で新しい量子的物理直観を得ることは難しい。著者も書いてある通り、たぶん何度も何度も読み込んで体に染み込ませないといけないがそのためのテキストとしては十分優秀かと。
一般的な理系教養教育を受けた幅広い層におすすめできる!という意味では先の薬の本よりも広範な読者にうけると思いました。最高 of 最高。
 
 

各章感想

1章で直観的な古典物理が導入される。微分イプシロンデルタまでここまで感覚的に説明されるとは、筆者の筆力すごい。
 
二章で光の量子性が二重スリットや光量子仮説、ドブロイという高校物理でまなんだ懐かしい単語とともに導入される。
 
三章で量子性がなければ現在の自然環境の観測が説明できないことを参ったってくらい叩き込まれる。ただし、前期量子論とよばれる立場だけど。この章の議論はおもしろいなぁ…量子論チョットワカルジャッジメントに使える話がたくさんある。
 
さあ、ここからだ、第四章からが本番だ!
不確定性原理も、ハイゼンベルグの思考実験から説明してもらえると自然な帰結として納得できる、そのための(優れた)実験なわけだけど、実際電子で二重スリット実験した写真みせられらとウッワカランとなる、そのくらいには古い直観にあわない
行列力学の導入がくるが、ここで明らかに議論がテクニカルになる。線型代数の心得がないともう追いかけることは無理だろう…
 
第5章で学生時代の私を殺したシュレディンガー波動力学ファインマン経路積分による別表現が与えられる。それぞれの表現が違うことはわかるが、それぞれの表現がなぜ必要か、どう使えるのか、それは(ほぼ本全体を通して)与えられないので、ここは数式を追うだけでかなり苦しい。
 
一方、第六章はしょっぱなからアツい。重ならない粒子性フェルミオンと重なりあう波動性ボゾンが、状態ベクトルの反転非反転、スピンとプランク定数角運動量と一気につながる。ここは感動的だった。
このあと、世の中の物性各種が電子のフェルミオン性から説明される
物があること、金属の物性、トンネル効果(ここで経路積分がでてくる)と半減期フラッシュメモリ半導体の記憶保存のしくみ、トンネル顕微鏡
 
第七章はすごくムズカシイ。
重ね合わせ、エンタングルメント、シュレディンガー猫、ワープする量子情報が説明されるが、量子のスピン状態の操作の議論はテキスト読むだけでは私にはついていけなかった。わかったのは量子のワープと相対性理論は一応整合している、ということ。そこの説明は言葉を尽くすタイプで歯切れがわるい(まあ数式全力で展開することはできないし)。
 
最後、第八章は量子コンピュータについてで、これはIBISの講演とかで得た知識からの差分はなかったので、個人的には唯一いらんかったけど、まあ知らなかったら価値があると思う。